5年目の結実は、進化への序章 RSS
2017年1月8日 23時58分
リバウンドを制する者はゲームを制する――バスケットボールで幾度となく繰り返されてきた格言が、女子決勝戦でも如実に表れた。
試合は、JX-ENEOSサンフラワーズが91-67で富士通レッドウェーブを破り、4年連続21回目の皇后杯を下賜された。
得点差以上にリバウンドでも、富士通の28本に対して、JX-ENEOSは59本と圧倒した。そこには、もちろん193cmの⑩渡嘉敷 来夢選手、184cmの㉑間宮 佑圭選手といった、昨年のリオデジャネイロオリンピックで活躍をした「アカツキファイブ」女子日本代表チームのツインタワーでもある二人の存在が大きい――実際に⑩渡嘉敷選手が18本、㉑間宮選手が11本のリバウンドを取っている――、だが見逃してはならないのが3番ポジション(スモールフォワード)の#52宮澤 夕貴選手の存在である。
試合後、敗れた富士通の小滝 道仁ヘッドコーチは、「ゾーンディフェンスを敷いたときに3番ポジションの⑮山本 千夏選手(176cm)の高さがないところで、リバウンドを取られてしまった」と言うが、ゾーンディフェンスのときだけに限らない。富士通がマンツーマンディフェンスをしたときも、やはり3番ポジションのリバウンドの差は大きく影響した。
実際に、182cmの#52宮澤選手が11本のリバウンドを取っている。
ただ単に見れば、身長の差がそのまま結果に現れたのか、やはりJX-ENEOSは身体能力の差で勝っているのかと、思われるかもしれない。確かにその差は否めない。
ただ一方で、昨シーズンまで身長の高さを生かせず、ベンチでくすぶっていた#52宮澤選手が、リオデジャネイロオリンピックを経験し、常にトップを走り続けるJX-ENEOSのスターティングメンバーとして試合に出られるようになった要因を見落としてはいけない。
宮澤選手はJX-ENEOSに入団して以降、チームメイトが3Pシュートをどんどん打っている横で、一人、基本的なゴール下でのファンダメンタルドリルなど、地道に取り組んできた。その結果、ワンハンドシュートが形になり始め、5年目の今シーズンは3ポイントラインの外からも安定して決められるようになったことで、3番ポジションの座を勝ち得たのである。
そうして、卵が先か、鶏が先かのたとえではないが、#52宮澤選手は高校時代に培ってきたインサイドプレイ、そしてリバウンドが生きたのである。
「リバウンドは常に意識しています。3Pシュートが入らないときに、何でチームに貢献するかと言えばリバウンドですから。今日も3Pシュートが全然入らなかったので(8本中1本しか決めていない)、ならばリバウンドに行こうと。特にタクさん(⑩渡嘉敷選手)やメイさん(㉑間宮選手)がシュートは打ったときは、自分も積極的にリバウンドに加わって、リバウンドに関わる人数を多くしようと意識しました」
それが11本のリバウンドを生み出し、うち5本がオフェンスリバウンドとなる。しかも3本は、そのまま宮澤選手の得点に結びついている。
#52宮澤選手を3番ポジションで起用できる一番のメリットは、”リバウンド”にあるのではないだろうか。
相手チームは当然、193cmの⑩渡嘉敷選手や184cmの㉑間宮選手を警戒し、マークマン以外も彼女たちの動向に注目する。そんなときに182cmの52宮澤選手が飛び込んできたら、ひとたまりもない。
相手チームがオフェンスのときも同様だ。何とか⑩渡嘉敷選手や㉑間宮選手をアウトサイドに引っ張り出して、ゴール近辺を手薄にさせたいと思っても、#52宮澤選手がいると、ペイントエリアでの攻撃はもちろん、オフェンスリバウンドも取り逃してしまい、チームのリバウンド総数も圧倒されてしまう。
トム・ホーバスヘッドコーチもはっきり言う。
「アース(#52宮澤選手)がリバウンドに入れるメリットは大きいですよ。彼女は手も長いしね。でもそれだけじゃないんです。ボールへの嗅覚というか、リバウンドが落ちるところに入っていく感覚を持っています。そこがすごくいい。ウチのリバウンドはタクとメイだけじゃない。3人いるんです」
今シーズン、これまで地道に努力を積み重ねてきた#52宮澤選手は、確率の高いワンハンドシュート、特に3Pシュートによる得点力アップが注目されている。
それは決勝の舞台でも、チームの勝利に欠かせない要素の一つだった。しかし、彼女に新たに加わった武器はそれだけではない。これまで積み上げてきたインサイドでの土台があってこそ、3Pシュートを含めた攻撃のバリエーションが、より多彩に輝くのだ。
「3Pシュートは入らなかったし、これまでも自信につながる試合はいくつかありましたけど、オールジャパンで結果を出せたことは今後につながります。ようやく少し、新たな道の先が開いた感じがします」
だが、ディフェンスでの難点が見られ、ドライブの安定感や3Pシュートを打つスピードなどオフェンスでの課題も残ったままだ。だからこそ、この先のレベルアップが非常に楽しみでもある。
#52宮澤選手の進化への道は、まだ始まったばかりである。
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