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現地レポート

42歳、母校に挑む RSS

2017年1月3日 19時18分

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男子1回戦、中国ブロックを勝ち抜いて今大会初出場を果たしたナカシマは、大学5位の青山学院大学と接戦を演じるも、65-80で敗れた。

バスケットボール競技は1試合40分間のゲームである。
その点においては、ナカシマの粘りを振り切った青山学院大学の強さを褒めるべきかもしれない。しかし、青山学院大学の若さと軽やかさを、第4ピリオドの序盤まで打ち消していたナカシマの老獪さ――もちろんナカシマにも20代前半の生きのよい若者はたくさんいるが、それ以上に光った30代、40代のプレイヤーたちの老獪さは、老若男女が楽しめるバスケットボールというスポーツの醍醐味の一つだろう。

母校・青山学院大学と対戦したナカシマ㊶松本 克也選手

母校・青山学院大学と対戦したナカシマ㊶松本 克也選手

「前半を終えた時点で10点以上リードできていれば、チャンスはあるかなと思っていました。というのも、僅差だと、どうしても後半の体力、チーム力でも青山学院大学の方が上だと思っていましたので……案の定、第4ピリオドにまくられていますしね」

苦笑しながら、そうゲームを振り返るのはナカシマの(ヘッド)コーチであり、今大会の最年長選手でもある42歳の㊶松本 克也選手だ。コーチ兼プレイヤー、両方の役割を担う195cmの松本選手は、スタメンでコートに立ち、ジャンプボールに跳んだ。

本人も認めていながら、それでも失礼を承知で書くならば、スピード・ジャンプ力において、対戦相手の青山学院大学の選手はおろか、チームメイトにさえも劣っている。それでも「他のメンバーに比べると、いろんな場を踏んできている自覚はある」と言うとおり、経験を武器に、この試合の最初の得点をフリースローで挙げた。

「最初に若い選手を出すよりは、僕みたいにある程度、経験を積んでいる選手が先に出て、ファウルをもらうプレイなどをして、チームを落ち着かせた方がいいと考えたんです。ワンポイントでもいいから、先に自分が出ようと」
コーチとしての考え方がずばり的中し、第1ピリオドを終了して、ナカシマが6点リードで終えた。

経験をベースに積極的なアタックを見せた㊶松本選手(右)

経験をベースに積極的なアタックを見せた㊶松本選手(右)

実は、㊶松本選手は、対戦相手の青山学院大学の卒業生であり、その後、大和証券、新潟アルビレックスBBでプレイした経験を持っている。青山学院大学の廣瀬 昌也ヘッドコーチとは、学生時代こそ重なっていないが、大和証券、新潟で一緒にプレイし、指導を受けた先輩・後輩、もしくは師弟の関係にある。

「正直、対戦が決まったときはやりにくいなと思いましたよ。だから対戦が決まってからは、あえて連絡も取りませんでした。でも青山学院大学がウチのビデオを仕入れたらしいという噂を聞いて、廣瀬さんも僕には負けたくないのだろうなと思いました」

だからこそ、出来る限り抗おう。そうすることが先輩であり、恩師でもある廣瀬ヘッドコーチや青山学院大学に対する礼儀である。㊶松本選手はそう考え、1か月前に左手の薬指を骨折し、練習ができないままオールジャパン2017を迎えても、積極的にアタックし続けた。

「実は3年前に完全に指導者になろうと決めてからは、まったくバスケットボールをやっていなかったんです。でも今年9月にチーム事情から『ちょっと出ようかな』と始めたくらいで、何も準備はできていないんです。これまでの蓄積を食いつぶしながらやっていただけです」

自身のプレイをそう振り返るが、青山学院大学が試合のテンポを早めようとしたときに、下がっていたベンチから立ち上がり、再びコートに立つと、青山学院大学の流れに引きずり込まれそうだったチームに、どっしりとした安定感を生み出した。それこそが第4ピリオドまで青山学院大学が流れを作れなかった大きな要因だったのだろう。

若いころの自分の良さはどこも残っていないと、㊶松本選手は言う。スピード、ジャンプ力、ディフェンスで全体を見渡す力――すべてがトップリーグ時代からは程遠い。
「それでもコーチとして選手たちに指導している以上は、自分がやらなきゃという気持ちはあります。それくらいです」気持ちは衰えゆく体力をも凌駕する、ということか。

ベンチに下がれば、一転、コーチとして指示を出す

ベンチに下がれば、一転、コーチとして指示を出す

「正直なところ、オールジャパンに出られたことに満足してしまいました。どうしてもこのチームで、この舞台を経験させたいと思っていましたから。65-80という結果で満足をしてはいけないと思うんですけど、これくらいの点差で終えることができたことは、2月に行われる実業団選手権(高松宮記念杯 第49回全日本実業団バスケットボール選手権大会)に向けて、選手たちのいい経験ができたと思います。その意味では、次につながる試合でした」

最後は“松本コーチ”の顔に戻ったが、選手としての彼を見たとき、いくつになってもバスケットボールはできる。しかもオールジャパンほどの大舞台にだって立つことができるのだと、㊶松本選手は教えてくれた。

応援してくださった方々にお礼を伝えるナカシマの選手たち

応援してくださった方々にお礼を伝えるナカシマの選手たち

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