8人で踏み出した歴史のはじまり RSS
2017年1月2日 23時48分
歴史は現在には生まれない。伝統は築こうと思っても築けるものではない。どちらも地道に日々を積み重ねていった先に生まれ、築かれるものだ。だが一方で、誰かがその一歩を踏み出さなければ扉は開かれず、土台さえも築けない。その意味では、どんな世界であっても最初の一歩を踏み出し、道を拓こうとする者の道は険しい。
女子の北信越ブロック代表の北陸大学は1年生チームだ。
1年生“中心”のチームではない。文字どおり、1年生しかいない、創部1年目のチームである。インカレ(第68回全日本大学バスケットボール選手権大会)は北信越ブロックの予選で新潟経営大学に敗れて、出場が叶わなかった。しかし、その予選の1週間後に行われたオールジャパン2017の北信越ブロック予選で、新潟経営大学に雪辱を果たし、今大会の出場権を得た。
初の全国舞台の対戦相手は、インカレ優勝の経験もある松蔭大学。メンバーの出身校を見れば、大阪薫英女学院、県立金沢総合、富士学苑といった全国でもトップレベルの名門校の名前がずらりと並ぶ。北陸大学も県立津幡を筆頭に、県立広島皆実など全国大会の常連校の名前はあるが、キャリアという面では若干の見劣りは否めない。
試合は76-102の大差で敗れたが、簔川 圭太監督が「序盤からほぼ互角にやりあえたことはよかったです」と試合を振り返るように、前半は攻撃力のある松蔭大に真っ向勝負を挑み、互角に渡り合っていた。後半に入ると、松蔭大の高さに手こずり、フィジカルコンタクトで体力を奪われ、同時に集中力まで欠いてしまったが、それらは次年度以降の大きな課題だろう。ミニバスケット以来、人生初のキャプテンに任命された④澤村 朋香選手も「体力でも(体の)当たりの部分でもまだまだ足りないなと思いました」と、その差を痛感したようだ。
簔川監督もそれら課題を挙げたうえで、手応えも得た。
「(身長が)小さいことはわかっていたので、ディフェンスから一生懸命やっていこうとチームを作ってきました。積極的にダブルチームを仕掛けようと狙っていたことが、序盤勝負になっていた要因だと思います。来年度以降、メンバーが増えて、高さが出てくれば、もう一勝負できるかなと思っています」
創部1年目で、しかも1年生だけ8名の北陸大は、当然、チーム内で試合形式の練習ができない。おのずと基礎練習が多くなり、試合勘は土日に県内外の高校生、大学生の練習試合を重ねて身につけていくしかなかった。しかし、簔川監督は「ハンデといえばハンデですが、8名全員に目をかけて基礎づくりはできたかな」と前向きに捉える。それがチームの、たとえビハインドを背負ったときでも、前向きに戦い続けられた要素にもなったのだろう。
「なにぶん真面目な子たちで、僕が何も言わなくても、練習の2~3時間前に来て、シューティングや自主練習をする子たち。(この)1年生が土台を作ってくれたので、ここからは誰が新入生として入ってきても、チームとしては大丈夫かなと安心しています」
そう言って、簔川監督は次の言葉につなげる。
「あの8人でよかったです」
意志あるところに道は開ける。
何もないところに、創立40周年の北陸大学がバスケットボール部を創るという意志を持ち、新潟医療福祉大学で男子のコーチをしていた、地元・石川出身の簔川監督を招聘した。冷暖房完備の新しい体育館を建て、そこに“8粒の種”を蒔いた。その種は9カ月の時を経て、”オールジャパン出場”という最初の花を咲かせた。たった一輪の花だが、そこから新しい種子が生まれ、これから花の輪を広げていく。
伝統がなければ作ればよい。キャリアがなければ積み上げていけばよい。始めるのに遅いということはないのだ。どれだけの意志を持って、歩みを進められるか。
北陸大にとって、初めての全国大会となったオールジャパン2017は悔しい結果に終わった。しかしその歴史は始まったばかりである。わずか8名が踏み出した最初の一歩に、何よりも大きな価値はある。
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