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現地レポート

第92回天皇杯・第83回皇后杯(オールジャパン2017)閉幕 ~今の自分を超えていけ~ RSS

2017年1月10日 12時17分

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「第92回天皇杯・第83回皇后杯 全日本総合バスケットボール選手権大会(オールジャパン2017)」は、千葉ジェッツが初の天皇杯を、JX-ENEOSサンフラワーズが4年連続21回目の皇后杯をそれぞれ下賜され、その幕を下ろした。

1月2日から8日間に渡って繰り広げられてきた今大会は、1回戦から延長戦になるなど、多くのドラマを生んだ。
今大会では、下は15歳から上は42歳まで、幅広い年齢層の選手が集結。こういったカテゴリーを問わず行われる全国規模の大会はオールジャパンしかない。裏を返せば、バスケットボールという競技が、その勝敗に関わらず、それだけの年齢層を超えて、一緒にプレイできる競技でもあることを証明している。

スポーツは勝敗を競うものだが、勝敗だけでは語れない。
そのことを改めて感じさせる”オールジャパン2017″となった。

高校チャンピオンの福岡第一高等学校は、第1シードの川崎ブレイブサンダースに真っ向から挑んだ

高校チャンピオンの福岡第一高等学校は、第1シードの川崎ブレイブサンダースに真っ向から挑んだ

企業チームを母体に持たない、完全なプロチームとして立ち上がった千葉ジェッツは、最後まで自分たちのバスケットを貫き通し、クラブ創設初の栄冠に輝いた。

今シーズンから指揮を執る千葉ジェッツの大野 篤史ヘッドコーチが、チームの進化について言う。
「アドバンテージ(有利な点)とディスアドバンテージ(不利な点)を選手同士が理解できたことが大きい。選手全員がやらなければいけないことを徹底して、各々がやらなければいけないことを全うしてくれました。良いところだけでなく、カバーし合わなければいけないところを、みんなでカバーしたことが、チームとして成長したところです」

211cmの⑯ヒルトン・アームストロング選手を除けば、決してサイズの大きいチームではない。
②富樫 勇樹選手に至っては、出場した全ての男子の出場選手のなかでも下から8番目の167cmである。リバウンドや、ミスマッチを突く相手のポストアップに対して、いかにカバーするか。マイナスをマイナスのままにせず、チームでプラスに……いや、少なくともゼロにするよう支え合った。

もちろんサイズのなさをカバーするのは、チーム力だけではない。サイズの小さい選手たちが、それを凌駕するだけの個の能力――例えばクイックネスやボールハンドリング力、多彩なシュートバリエーションなど、練習で身につけたことも見落としてはいけない。

高めた個の力を集結させ、それを組織として昇華させる。
その歯車がガッチリと組み合わさった千葉ジェッツの初優勝だった。

B.LEAGUE元年にプロチームとして初の天皇杯を下賜された千葉ジェッツ

B.LEAGUE元年にプロチームとして初の天皇杯を下賜された千葉ジェッツ

一方の女子で、日本一に輝いたJX-ENEOSサンフラワーズは、多くの人から”勝って当たり前”と思われてしまうほど、個の力も組織力も圧倒的なチームである。だからこそプレッシャーは大きいと、今シーズンから指揮を執るトム・ホーバスコーチは認める。

彼女たちに挑戦するチームは、”打倒・JX-ENEOSサンフラワーズ”という明確な目標がある。事前にビデオで分析して弱点を洗い出し、そこを突いていこうとする。しかし、JX-ENEOSサンフラワーズの選手たちには、それがない。もちろん相手チームの分析し、同じように弱点を探すが、追いつき、追い越す相手が目には見えないのだ。

しかし、それを覆すように、優勝の記者会見でキャプテンの⓪吉田 亜沙美選手がこんなことを言った。
「トム(・ホーバスヘッドコーチ)が求めているバスケットがあります。私たちはそれに追いついて、追い越さなければいけません。トムが求めているバスケットを超えたいんです。そして、リーグ優勝をしたときに『こんなにできるの?』ってトムを驚かせたいんです。それがあるからこそ私たちは進化できるし、もっともっと強くなれると思っています」

あくなき探究心、向上心こそが他を追随させない、JX-ENEOSサンフラワーズが女王で居続けられる最大の要因なのだろう。
そう考えると、彼女たちを女王の座から引きずり下ろすことは、容易ではない。ただ、容易ではないからこそ、追いかけるチームはより高いレベルの努力を重ねなければならず、結果として、日本の女子バスケットボール界全体のレベルアップに繋がるのだ。
そのことに改めて気づかされたJX-ENEOSサンフラワーズの4連覇、そして大会史上最多の21回目の優勝だった。

JX-ENEOSサンフラワーズが4年連続21回目の皇后杯を下賜された

JX-ENEOSサンフラワーズが4年連続21回目の皇后杯を下賜された

オリンピックイヤーの2016年を終え、2017年から再び世界に向かう戦いが始まる。
男子は2019年FIBAワールドカップの出場をかけた予選会が、女子はFIBAワールドカップ(大会名称変更)の出場権をかけた予選会が、男女それぞれ新たな競技フォーマットでスタートする。

また、アンダーカテゴリーでは、男女ともにU-19日本代表チームが世界選手権に挑戦し、16歳以下のU-16日本代表チームは世界の切符をかけたFIBA ASIA選手権に挑む。そうした数々の経験が2020年の東京オリンピックに通じ、その先の未来にもつながっていく。

千葉のキャプテン㉞小野龍猛選手が今後に向けて、こう言っていた。
「控え選手はもっともっと我を出していい。そうして、チーム全員で練習から競争し合って、本当に良いチームになれるようにしたい」

限界は、自分でそれと決めつけなければ、どこまでも伸ばすことができる。今の自分を追い越し、コーチの求めるバスケットボールをも追い越す。そうして、どこまでも走り続ける。
オールジャパンは国内最高峰の大会だが、今を生きる選手たちには通過点でしかない。

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ジェット気流に乗って RSS

2017年1月9日 23時21分

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「機を見るに敏」とは、好機を見極め、的確に行動するという意味である。オールジャパンでの千葉ジェッツを表すのに適した言葉だ。
男子決勝戦、千葉ジェッツは川崎ブレイブサンダースを88-66で下し、初の天皇杯を下賜された。

天皇杯を下賜された千葉ジェッツのキャプテン㉞小野 龍猛選手

天皇杯を下賜された千葉ジェッツのキャプテン㉞小野 龍猛選手

千葉ジェッツは、準々決勝で栃木ブレックス(B.LEAGUE2位)、準決勝でシーホース三河(同3位)、そして決勝の川崎ブレイブサンダース(同1位)と、B.LEAGUEの上位3クラブを破っての完全優勝。しかも、常勝チームの相手に“らしさ”を出させず、自分たちは“らしさ”を出し切ったのだ。

「ハードにディフェンスし、リバウンドを取り、速攻を出す。そんなジェッツらしさを出せた勝利だった」
千葉ジェッツのキャプテン㉞小野 龍猛選手は、決勝戦をそう振り返る。

もちろん、どのチームも常に自分たち“らしさ”を出そうと準備し、試合に臨んでいる。しかし、それが出せるか否かの差は、選手全員が常に意識を統一できるかどうかにある。千葉ジェッツがそれをできたのは、連勝で得た自信と、その後の連敗の悔しさにある。
「(リーグ戦で)13連勝したあたりから、チーム全員で『第1ピリオドからハードなディフェンスをしよう』と意識できるようになりました。しかし、年末の川崎戦ではそれができずに連敗してしまったので、第1ピリオドでやられることをなくそうと挑んだ今大会でした。今大会では、全員がウォーミングアップのときからそれを意識していたことが大きいと思います(小野選手)」

リーグ戦で見出したクラブの共通認識を、大会直前のゲームで一度は見失ったものの、その経験で再認識ができたことで、オールジャパンで最高の結果となった。

もちろん、40分間のゲームの中には、好機もあれば、その逆の危機もある。
しかし本当に苦しくなる前に、㉞小野選手は素早くその芽を断ち切った。第2ピリオドで得点の止まっていた川崎ブレイブサンダースが㉕ジュフ 磨々道選手のフリースローで得点を動かした直後、また第3ピリオドに⑭辻 直人選手がこの試合1本目の3Pシュートを沈めた直後に、㉞小野選手が3Pシュートを決め返している。どちらも川崎に流れが傾く可能性のあるプレイだっただけに、その2本の3Pシュートが持つ意味は大きい。

そうした危機管理能力、状況判断は、昨年の日本代表活動での経験が生きていると㉞小野選手は言う。
「数少ないチャンスで攻めることや、状況をよく見ることは日本代表で考えさせられたことですから」

昨年7月、セルビア・ベオグラードで行われたFIBAオリンピック世界最終予選で、「チームワークもそうだけど、“個”の力が足りない」と感じた㉞小野選手は、帰国後、悪い状況を個人でどう打開すべきかを考え、そのための練習を重ねてきた。
それが決勝戦、チームが危機に陥る前に、状況を確認し、どのプレイが有効なのかを選択、正確なシュートで打開したのである。

的確な状況判断と、その遂行力は日本代表での経験が生きた

的確な状況判断と、その遂行力は日本代表での経験が生きた

チームで好機を逃さず、危機には気づいた個が早めにその芽を摘んでいく。
勝つためには当然のことかもしれないが、決して簡単なことではない。しかも、それを初戦の新潟アルビレックスBB戦から4試合続けてできたことは、もはや単なる“勢い”ではない。彼らの実力である。

今大会のキャッチフレーズは「歴史と共に、新時代を築く。」である。

クラブ創設初の栄冠に輝いた千葉ジェッツは、歴史こそ浅いものの、日本のバスケットボール新時代を築いた。
オールジャパン初制覇というジェット気流に乗って、千葉ジェッツはさらなる成長を目指す。

ブースターを含めた全員のエナジーで、千葉ジェッツがオールジャパン2017を制した

ブースターを含めた全員のエナジーで、千葉ジェッツがオールジャパン2017を制した

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5年目の結実は、進化への序章 RSS

2017年1月8日 23時58分

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リバウンドを制する者はゲームを制する――バスケットボールで幾度となく繰り返されてきた格言が、女子決勝戦でも如実に表れた。

試合は、JX-ENEOSサンフラワーズが91-67で富士通レッドウェーブを破り、4年連続21回目の皇后杯を下賜された。
得点差以上にリバウンドでも、富士通の28本に対して、JX-ENEOSは59本と圧倒した。そこには、もちろん193cmの⑩渡嘉敷 来夢選手、184cmの㉑間宮 佑圭選手といった、昨年のリオデジャネイロオリンピックで活躍をした「アカツキファイブ」女子日本代表チームのツインタワーでもある二人の存在が大きい――実際に⑩渡嘉敷選手が18本、㉑間宮選手が11本のリバウンドを取っている――、だが見逃してはならないのが3番ポジション(スモールフォワード)の#52宮澤 夕貴選手の存在である。

試合後、敗れた富士通の小滝 道仁ヘッドコーチは、「ゾーンディフェンスを敷いたときに3番ポジションの⑮山本 千夏選手(176cm)の高さがないところで、リバウンドを取られてしまった」と言うが、ゾーンディフェンスのときだけに限らない。富士通がマンツーマンディフェンスをしたときも、やはり3番ポジションのリバウンドの差は大きく影響した。
実際に、182cmの#52宮澤選手が11本のリバウンドを取っている。

23得点・11リバウンドの活躍で、チームの優勝に大きく貢献したJX-ENEOSサンフラワーズ#52宮澤 夕貴選手

23得点・11リバウンドの活躍で、チームの優勝に大きく貢献したJX-ENEOSサンフラワーズ#52宮澤 夕貴選手

ただ単に見れば、身長の差がそのまま結果に現れたのか、やはりJX-ENEOSは身体能力の差で勝っているのかと、思われるかもしれない。確かにその差は否めない。
ただ一方で、昨シーズンまで身長の高さを生かせず、ベンチでくすぶっていた#52宮澤選手が、リオデジャネイロオリンピックを経験し、常にトップを走り続けるJX-ENEOSのスターティングメンバーとして試合に出られるようになった要因を見落としてはいけない。

宮澤選手はJX-ENEOSに入団して以降、チームメイトが3Pシュートをどんどん打っている横で、一人、基本的なゴール下でのファンダメンタルドリルなど、地道に取り組んできた。その結果、ワンハンドシュートが形になり始め、5年目の今シーズンは3ポイントラインの外からも安定して決められるようになったことで、3番ポジションの座を勝ち得たのである。

そうして、卵が先か、鶏が先かのたとえではないが、#52宮澤選手は高校時代に培ってきたインサイドプレイ、そしてリバウンドが生きたのである。
「リバウンドは常に意識しています。3Pシュートが入らないときに、何でチームに貢献するかと言えばリバウンドですから。今日も3Pシュートが全然入らなかったので(8本中1本しか決めていない)、ならばリバウンドに行こうと。特にタクさん(⑩渡嘉敷選手)やメイさん(㉑間宮選手)がシュートは打ったときは、自分も積極的にリバウンドに加わって、リバウンドに関わる人数を多くしようと意識しました」
それが11本のリバウンドを生み出し、うち5本がオフェンスリバウンドとなる。しかも3本は、そのまま宮澤選手の得点に結びついている。

リバウンドにも絡んでくる、182cmのスモールフォワードは「アカツキファイブ」女子日本代表チームにとっても大きな武器になる

リバウンドにも絡んでくる、182cmのスモールフォワードは「アカツキファイブ」女子日本代表チームにとっても大きな武器になる

#52宮澤選手を3番ポジションで起用できる一番のメリットは、”リバウンド”にあるのではないだろうか。
相手チームは当然、193cmの⑩渡嘉敷選手や184cmの㉑間宮選手を警戒し、マークマン以外も彼女たちの動向に注目する。そんなときに182cmの52宮澤選手が飛び込んできたら、ひとたまりもない。

相手チームがオフェンスのときも同様だ。何とか⑩渡嘉敷選手や㉑間宮選手をアウトサイドに引っ張り出して、ゴール近辺を手薄にさせたいと思っても、#52宮澤選手がいると、ペイントエリアでの攻撃はもちろん、オフェンスリバウンドも取り逃してしまい、チームのリバウンド総数も圧倒されてしまう。

トム・ホーバスヘッドコーチもはっきり言う。
「アース(#52宮澤選手)がリバウンドに入れるメリットは大きいですよ。彼女は手も長いしね。でもそれだけじゃないんです。ボールへの嗅覚というか、リバウンドが落ちるところに入っていく感覚を持っています。そこがすごくいい。ウチのリバウンドはタクとメイだけじゃない。3人いるんです」

活躍が認められた#52宮澤選手は、初の大会ベスト5に選出された

活躍が認められた#52宮澤選手は、初の大会ベスト5に選出された

今シーズン、これまで地道に努力を積み重ねてきた#52宮澤選手は、確率の高いワンハンドシュート、特に3Pシュートによる得点力アップが注目されている。
それは決勝の舞台でも、チームの勝利に欠かせない要素の一つだった。しかし、彼女に新たに加わった武器はそれだけではない。これまで積み上げてきたインサイドでの土台があってこそ、3Pシュートを含めた攻撃のバリエーションが、より多彩に輝くのだ。

「3Pシュートは入らなかったし、これまでも自信につながる試合はいくつかありましたけど、オールジャパンで結果を出せたことは今後につながります。ようやく少し、新たな道の先が開いた感じがします」

だが、ディフェンスでの難点が見られ、ドライブの安定感や3Pシュートを打つスピードなどオフェンスでの課題も残ったままだ。だからこそ、この先のレベルアップが非常に楽しみでもある。
#52宮澤選手の進化への道は、まだ始まったばかりである。

「スター選手たちについていくのではなく、自分がチームを引っ張る自覚はある」と#52宮澤選手は言った

「スター選手たちについていくのではなく、自分がチームを引っ張る自覚はある」と#52宮澤選手は言った

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